不動産に関する紛争とその解決事例を挙げてみました。参考になさってください。事案に関するお問い合わせは、当事務所までお気軽にどうぞ!
1 相談者は、アパートのオーナー。経営しているアパートの一室に居住している賃借人が長期にわたり賃料を滞納しています。どうしたらよいでしょうか?
(行った手続)
先ずは、賃借人に対して内容証明郵便を発し、賃貸借契約を解除する旨を通知。続いて、貸室の明渡と未払い賃料の支払いを求める訴訟を提起。
内容証明郵便を受け取った賃借人は、直ぐに退去することなどできない、これまで部屋の修理や模様替えに支出した費用を返せなどあれこれいい、言を左右にして退去もせず、賃料も払おうとしませんでした。そのため、訴訟を提起しました。 訴訟において賃借人は、貸室の明渡については承諾しましたが、未払い賃料については、生活が苦しくて支払えないと述べました。結局、①賃借人は1ヶ月以内に自ら貸室から退去すること、②1ヶ月を過ぎても貸室内に残存している物品については所有権を放棄し、相談者がいかように処分しても異議を述べないこと、③期限までに退去しないときは、遅延損害金を支払うことを骨子とする和解が成立。1ヶ月後、賃借人は、貸室内の物品をすべて片付けて退去し、無事貸室の明渡を受けることができたました。
(コメント)
賃料の未払いの事案では、賃借人が自ら退去するのと引き換えに、未払い賃料の支払を免除することが多くあります。 賃借人が自ら退去しない場合、賃貸人は裁判所に強制執行を申立てて賃借人を強制的に退去させることができるのですが、それには多額の費用と時間を要することが少なくありません。一方、賃料を滞納する賃借人は、そもそも経済的な余裕がなく、判決を得ても、強制執行によって未払い賃料を回収できる可能性は高くはありません。そこで、未払い賃料を免除して賃借人を自主的に退去させるのが結果として賃貸人の負担が少なくなるのです。 未払い賃料は回収できないことが多いです。そのため、滞納が長期にわたり高額になる前に早めの対処をすることが肝要です。
2 相談者は、貸し倉庫業を営む会社。倉庫の賃借人は、経営が悪化して事業を停止し、倉庫の賃料を滞納したまま行方不明となりました。倉庫内には、賃借人が倉庫に預けていた什器備品類が放置されたままとなっています。 倉庫を明渡してもらうにはどうしたらよいでしょうか?
(行った手続)
裁判所に、未払となっていた倉庫の賃料に基づき、放置された什器備品類の差押、競売を申立て、自身で落札する。
(コメント)
倉庫の貸主は、裁判を提起して判決を得ることなく、未払の賃料に基づいて倉庫に預けられた物品の差押、競売を申立てることができます。これを留置権といいます。留置権は、どのような債権についても必ず認められるというわけではなく、また何でも差押さえることができるというわけでもないのですが、本件は、留置権をうまく利用できたケースです。 特別の事情がない限り、放置された什器備品類は換価価値がほとんどなく、他に入札者はないので、相談者が自身で落札します。落札した後は、相談者が自由に撤去、処分することができます。差押、競売によっても未払い賃料を回収することはできず、むしろ費用を支出することになりますが、手続上の制約が少なく、簡易迅速に倉庫の明渡を実現できました。
3 相談者は、貸しビルの一室を賃借していた。まもなく期間が満了するため、約定の更新料の支払を準備していたところ、賃貸人から、賃料を値上げすること、及び値上げに応じないときは賃貸借契約を更新しないことを一方的に通告されました。どうしたらよいでしょうか?
(行った手続)
賃貸人に対し、従前どおりの賃料での賃貸借契約が存在することの確認を求める訴訟を提起。
賃貸人は、訴訟になってようやく賃料値上げの根拠を提示してきましたが、いずれも決定的なものではありませんでした。一方、当該ビルは市街地にありながら、賃料は長期間据え置かれたままであったという事情もありました。これらの事情を踏まえ、賃料を増額することで和解が成立しましたが、その金額は、当初の賃貸人が通告してきた金額よりは大幅に少ないものでした。
(コメント)
賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との合意によって成立し、当事者が一方的にその内容を変更できるものではありません。合意が成立しない場合、賃料を増額するには、賃貸人から賃料増額の調停を提起する等の手続を執る必要があります。しかし、現実には、トラブルとなって困るのは賃借人であることが多いので、賃貸人の要求に応じてしまうことも少なくないようです。
本件で相談者は、賃貸人が何の根拠も示さず、一方的に通告してきた賃料に納得がゆきませんでした。しかし、このままダラダラと話し合いをしていても埒があきそうになったため、訴訟を提起することとしました。
賃料はいくらが相当かの判断は難しいところで、この点を徹底的に争うとなると、不動産鑑定士など専門家の鑑定や意見を求めることなどの手続や費用が必要なってきますし、裁判所が最終的にどのような判断をするかも予測しがたいところです。これらを踏まえ、相談者は、若干の賃料の値上げを受入れて解決することを選択しました。
一方、賃貸人側も、いずれ相談者は折れるだろうと安易に考えており、相談者が訴訟を提起してくることまでは予測していなかったようです。賃貸人は、当初は高圧的なものいい、姿勢でしたが、訴訟では和解の成立に協力的でした。